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畑の半分、収入の8割が流された
長野県・豊野地区で持続可能なリンゴ栽培を目指す

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畑の半分、収入の8割が流された<br>長野県・豊野地区で持続可能なリンゴ栽培を目指すの写真

長野県の北部に位置する豊野町(現在は長野市豊野町)は、明治時代から100年以上続くリンゴの名産地です。県の事業として山林を開墾した大規模な段々畑を造成し、たくさんのリンゴ農家が栽培に取り組んできました。

そんな豊野町は2019年10月、台風19号による甚大な被害に見舞われました。千曲川が氾濫し、多くの住宅や農地が水没。木がなぎ倒され、回復不能になった農園も多くあります。

宮下さん提供写真
(宮下さん提供写真)

宮下果樹園も、被災したリンゴ農園のひとつです。五代目・経営者の宮下直也さんは、災害からの復興を契機に「高密植栽培」という新しい栽培方法に挑戦しています。農業初心者や高齢者も働きやすいリンゴ畑を作ることを目指して、クラウドファンディング*を実施、目標金額の倍以上の支援が集まりました。

同時にリンゴの木のオーナーを募集し、豊野町を訪れてもらうことで地域を活性化しようとする取り組みも行っています。宮下さんに、リンゴの魅力やリンゴ畑の復活にかける思いをお聞きしました。

*台風被害からの復活!アウトドアシーンに美味しい林檎を届けたい(外部サイト)

蜜入りだから、甘いリンゴという訳じゃない?

高祖父の時代から続く果樹園を引き継いだ、五代目・宮下直也さん
高祖父の時代から続く果樹園を引き継いだ、五代目・宮下直也さん

宮下果樹園のある長野県豊野町は、おいしいリンゴを育てるために絶好の環境がそろっていると、宮下さんは言います。

「北信五岳の山々から流れ込むミネラルたっぷりの伏流水、栄養豊富な粘土質の土壌、日照時間が長く降水量が少ないリンゴ栽培に最適な気候です。さらに昼夜の寒暖差が大きい内陸性気候のため、リンゴの実が養分をため込みやすく、甘くなります」

豊野町は丘陵地の南斜面が多く、太陽が当たる時間が長いため、リンゴが赤く色付くために重要な日当たりも確保できるそう。

「うちでは、さらに木の下に反射シートを敷くことで、常に全体に光が届くよう気を配っています」

宮下さんは5年前、28歳の時に結婚を機に勤めていたアパレル会社を退職して宮下果樹園を引き継ぎました。

「最初の頃はよく父に『リンゴ作りは子育てと一緒だ。リンゴの様子を伺え、話しかけろ!』と叱られました。リンゴの味わいは、枝のどの部分に実を付けさせるかによって味がまったく変わってしまいます。剪定(せんてい)という不要な枝を取り除く作業が、リンゴの味を決めると言っても過言ではありません。しかしこれには高い経験値や技術が必要なんです」

どの枝を残すか決めるのも一苦労です。

「うちでは、父と僕、高齢のパートさん達で剪定をするのですが、どの枝を剪定し、残すのかで毎年激論になります(笑)。一つひとつの作業に繊細にこだわって、上の世代の技術を継承していくことで、りんごの味が守り継がれているのだと思います」

父の教えを胸に、日々学びながら“我が子”を育ててきた宮下さん。そんな宮下さんの考える“おいしいリンゴ”とはどんなものなのでしょうか?

「リンゴのおいしさは、甘さと酸味のバランスがとれたリンゴにこそ表れると思います。酸味があるからこそ、りんご本来の甘さとおいしさが際立つんです。ぜひ、甘さと酸味の調和を楽しんでもらいたいですね。最近は甘いリンゴが人気で、とくに“蜜入りのリンゴ”が流行っているのですが、実は蜜自体が甘いわけではないんです」

高祖父の時代から続く果樹園を引き継いだ、五代目・宮下直也さん

リンゴは、ソルビトールというでんぷんが実に溶けだすことで甘くなります。蜜とは、実が熟しきったことでソルビトールが行き場を失い、細胞からあふれ出している状態のこと。完熟した証ではありますが、ソルビトール自体の甘みは強くはないのだそうです。

「ただ、蜜入りのリンゴは水分が多いため、ジューシーさや蜜の味が好きな方にはおすすめです」

リンゴはさまざまな品種が市場に出回っています。宮下さんにおすすめの品種を聞いてみました。

「長野県には長野生まれのオリジナル品種が『秋映(あきばえ)』、『シナノゴールド』、『シナノスイート』と三種類あるのですが、なかでも『秋映(あきばえ)』は酸味がありながら甘みもとても強くて好きですね。『サンふじ』も、蜜の味と酸味のバランスがとても良い品種だと思います」

今は1年中リンゴを購入できますが、最もおいしい時期は9月から10月だそう。

「やはり獲れたてのリンゴが最もおいしい。リンゴはみかんのように追熟しないので、もぎとった瞬間が一番おいしいんです。獲れたてのリンゴの果汁の多さは段違いですよ。追熟しないぶん日持ちがするので、収穫から2週間くらいはあまり変わらないおいしさを楽しんでもらえると思います」

畑の半分、年間収入の8割が流された台風19号からの復活

被災直後の様子(宮下さん提供写真)
被災直後の様子(宮下さん提供写真)

2019年の台風19号で、豊野町は千曲川の堤防が決壊し大規模な水害に遭いました。当時、新幹線が水没する衝撃的な映像が報道されましたが、まさに宮下果樹園の畑はその真横にもあります。

「当園のリンゴ畑の半分が水没し、年間の収入の8割に相当する収穫前のサンふじのほとんどが濁流に飲まれました。農業機械も含め、損害は数千万円ほどですね」

奥に見えるのは、北陸新幹線の車両庫
奥に見えるのは、北陸新幹線の車両庫

リンゴの木は、一般的なもので植樹から収穫まで最低でも約5年から10年、本格的に収穫できるようになるには約15~20年ほど掛かります。

「若木は木の力が強過ぎることで実に養分が回りにくく、いいリンゴができないんです。木の力が落ち着いた15年から25年くらいの木のリンゴが最もおいしいといわれています」

そのため高齢の方の中には、被害を受けた木を植え替えることを諦め、リンゴ栽培をやめてしまう方も多くいると言います。そんな中で宮下果樹園を救ったのは、たくさんのボランティアの人たちでした。

「SNSで被害状況を発信したところ、たくさんの方が駆けつけてくださって、支援物資を送ったり、街や畑から泥をかき出したりする作業を手伝ってくださいました。本当に感謝してもしきれません」

木の手入れをする宮下さん

ボランティアのサポートにも恵まれ、今年5月、宮下さんのリンゴの木は無事に桃色がかった花を咲かせました。

「泥が付着してしまったので、洗浄しても花が付かないのではないかと心配していたのですが、これで何とかリンゴ栽培を続けていけるなと思いました」

宮下さんは、ほっとした笑顔を浮かべます。また、台風被害は土壌に思わぬ変化をもたらしました。

「浸水した地域のリンゴ畑の土の成分を調べたところ、リンゴの栄養に必要な窒素・リン酸・カリウムが豊富になっていることが分かりました。『よかった!』と手放しに喜べることではありませんが、もしかすると、これまでも川が氾濫することで、土地が肥沃(ひよく)になってきた歴史があるのかもしれません」

宮下さんは、木が折れてしまったリンゴ畑を復興させるためにクラウドファンディングで支援を呼びかけました。ただ新しい木を植えるだけではなく「高密植栽培」への改植に挑戦するためです。

被災後、新たに植えられたリンゴの木

「高密植栽培とは、1アール(100平方メートル)辺りに従来の10倍~20倍の本数を植える栽培方法です。通常10年以上かかるところを約5年ほどでリンゴを本格的に収穫することができ、普通栽培の約3倍の収穫量が見込めます」

また、農薬の使用量が減らせたり、危険な作業や高度な技術が必要なかったりする分、高齢者や農業初心者にも作業がしやすいなど、作業効率の面で多くのメリットがあります。

「水害を避けて山手の畑ばかりになってしまったら、高齢者や初心者は危なくて作業ができなくなってしまう」と話す宮下さん。高密植栽倍によって、新規の就農者も参加しやすい持続可能な農業の実現を目指しています。

地元に人を招き、リンゴ畑を“第2の故郷”に

地元に人を招き、リンゴ畑を“第2の故郷”に

クラウドファンディングを始めた理由は、資金面よりも人とのつながりを作り「今まで信州を助けてくれた方々に恩返しがしたい」という気持ちが強いと、宮下さんは話します。

「ボランティアの方に助けていただいて、人の結びつきの大切さを強く感じました。支援してくれる人たちに、気軽に帰ってこられる“第2の故郷”としてリンゴ畑を訪れてもらいたいんです。僕自身、大学卒業後に一度都会で就職したことで、豊野町の自然の素晴らしさに気づきました。都会で暮らしている人たちに、リンゴの収穫やリンゴ畑の広がる風景の美しさを体験してほしいとも思っています」

宮下さんは被災する前から、リンゴを使った新しい商品の開発や、リンゴ農園に観光客を呼び寄せる試みを積極的に行なってきました。そこには、年々就農人口が減少する状況を変えたいという思いがあります。

新規就農者を増やしていくには、若い人たちに信州を好きになってもらい、リンゴ栽培の可能性や楽しさを感じてもらうことが大切だと考えるからです。宮下果樹園の「オリジナルアップルジャム」も、そんな思いから生まれました。

プレミアムアップルシリーズ

「リンゴ栽培を始めた頃、爪ようじの先ほどの小さな傷がついたリンゴを即加工品用に回してしまうことに驚きました。見た目も大切な品質ではありますが、純粋にもったいないな、って。だから獲れたてのリンゴのおいしさが味わえるジャムを開発しました。従来、ジャムは売れ残りのリンゴが使われていたのですが、もぎたてのリンゴのジューシーなおいしさを伝えられるジャムを作りたいと思ったんです」

プレミアムアップルシリーズのジャムは、採れたての厳選した数品種のリンゴを使用。低糖、無添加、ハンドメイドと、自然の味を最大限に生かしたおいしさも魅力です。

宮下さんは他にも、リンゴを使った登山の行動食「APPLE TRIP」や、アウトドア専用ドライフルーツの開発なども行っています。北アルプス・槍ヶ岳山荘での販売、信州の山に自ら登り発信をするなど、積極的に地元に人を招くアイデアを実行しています。

「豊野町のリンゴ農家は、20代30代の若手が30人ほどしかいません。もっと若い方や家族連れの方に信州を好きになって遊びに来てもらうことで、活気が出るようになればと思っています」

宮下さん

リンゴ栽培に取り組む中で、今も毎日新しい発見があると宮下さんは言います。

「農業をやっていると、自然から学ぶことが本当にたくさんあります。リンゴ作りを始めたばかりの頃は、それこそ多くの失敗をしました。例えば、摘果(てきか)といってなっている実を厳選していく作業があるのですが、それをやり過ぎてしまったんです。当時は、実を少なくすればするほど残した実に栄養がいき、おいしいリンゴができるだろうと思っていました(笑)」

その結果、かえって実に栄養がいき渡らず、未熟なリンゴになってしまったそう。

「畑ひとつ分をダメにしてしまって、父にこっぴどく叱られました。木にはちょうどいい着果量があることがそれで分かりました」

「農業をしていると、自然のバランスに嫌でも向き合うことになる」という宮下さん。自然災害や環境の変化に合わせて、リンゴの栽培方法やそこに携わる人々も変わっていかなければならないのかもしれません。

「昨年、子どもが生まれたばかりなのですが、家の裏にリンゴ畑が広がり、真っ赤な実がたわわになっているこの風景を目に焼き付けてもらいたいと思っています。子どもたちや地域のために僕は何ができるのか考えているところです」

取材:徳谷柿次郎
構成:都田ミツ子
撮影:小林直博
編集:Huuuu

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い会社です。ライター・編集者を中心に、全国のクリエイター、生産者、職人、地方行政と関係を築いています。わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。


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そうだ。こだわりは、ごちそうなんだと思う。
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