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その便利さ、本当に必要?
「10年後になくなるべきブランド」が
問いかけるテーマ

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「急に雨が降り出したけれど、傘を持っていない」。

そんなとき、コンビニまでひとっ走りすれば、500円ほどでビニール傘を買える時代。しかしその便利さの一方で、個性のないビニール傘は、置き忘れられても所有者が現れず、その多くが廃棄されてしまいます。

日本で1年間に廃棄されるビニール傘は、5000万本以上と言われています。手頃さを追求しているものの、リサイクルのしやすさは考慮されておらず、パーツの分解がしにくいため、多くはそのまま埋め立て処理や焼却処分されているのが現状です。

そんなビニール傘の抱える課題に一石を投じるのが、「PLASTICITY(プラスティシティ)」。廃棄されるビニール傘をアップサイクルし、バッグや財布、ハットなどのプロダクトを展開しています。

テーマは、「10年後になくなるべきブランド」。「PLASTICITY」を手がけるクリエイターの齊藤明希さんに、そのテーマに込めた思いについて聞きました。

◇ ◇ ◇

今回ご紹介する現場

PLASTICITY

「10年後になくなるべきブランド」をコンセプトに掲げ、大量に廃棄されているビニール傘をアップサイクル。防水性やメンテナンス性といった傘の持つ素材の特性を最大限活かした製品づくりを行っている。ブランド名には、「PLASTIC」の問題を抱える「CITY」に焦点を当て、解決されるべき環境問題が近い将来に解決されるように、という思いが込められている。

PLASTICITYのトートバッグ

トートバッグ1点で、傘2本分をアップサイクル

この日、取材のために訪れたのは、ギャラリースペース「HOLE IN THE WALL」。齊藤さんが専門学校在学中、友人らと一緒に「PLASTICITY」を初めて発表した場所です。

専門学校ではバッグづくりについて学んだ齊藤さん。プロジェクト発表のために制作したのが、「PLASTICITY」の原点となる、ビニール傘をもとにしたバッグでした。

そのデザインやコンセプトに共感したのが、株式会社モンドデザイン。廃タイヤを再活用したカバンづくりなどを行う同社の協力によって製品化が決まり、約5ヶ月後となる2020年4月にブランドデビューしました。

「専門学校のプロジェクトで発表した作品を製品化したものが、このトートバッグです。小型と大型の傘をもとに、スモールとラージの2サイズを展開しているのですが、ビニール地は試行錯誤の末、強度や縫いやすさの観点から4層にしました。

山型になっている部分があるのは、傘のフォルムを生かしてパターン(型紙)をつくったためです。普通のトート型にもできるのですが、なるべく捨てる部分が出ないように、そして傘を素材に使うことの価値を伝えるため、この型を採用しました」

この型のトートバッグ1点あたり、傘2本分をアップサイクルしているといいます。

一見、ビニール製のシースルーバッグのようでもありますが、よく見てみると、雨模様のようにシワが寄ったテクスチャや、錆のあとの茶色がかった箇所が。

「傘は完全な平面ではないので、プレスする際に空気が入ったりシワが寄ったりして、こういう表情になります。使用された度合いなどにより透明度が異なりますし、骨組みの部分に錆の色が残っている素材もあります。でも、劣化や錆もアップサイクル素材ならではの個性と捉え、あえてデザインの一部として取り入れているんです」

当初はベーシックなクリアカラーのみ扱っていたそうですが、徐々にバリエーションを広げ、リサイクル素材のポリエステルやナイロンを使った裏地をつけたり、クッション地を挟んでキルティング仕様にしたりと、クリア以外のカラーにも挑戦しています。

「分解しにくいから」、海外の埋立地へ送られる傘

専門学校入学前は、香料を扱う化学メーカーやウェブデザインの会社に勤めていた経歴も持つ齊藤さん。前職時代、ライフスタイルを見直していくうちに、ものづくりの背景について考えるようになったといいます。

「動物が好きなので、5年くらい前から食事を見直しはじめたのですが、そのうちに消費するものすべての背景が気になるようになりました。『ほしいバッグや洋服が何からできているのか』と考えはじめると、何も買えなくなってしまったんです。それならいっそ動物にやさしいブランドを自分ではじめようと、バッグづくりについて学ぶために専門学校へ入学しました」

コルクの生地やヴィーガン素材など、“動物にやさしい素材”を模索しはじめた齊藤さん。じつは、傘のビニール素材にたどりつくまでが長かった、と振り返ります。

「エコな素材って、どの観点からみるかによって、意見が分かれるんです。『動物性のレザーは動物には直接やさしくないけれど、最終的に土に還るから環境にはやさしい』という考え方もあれば、『ポリ塩化ビニルやポリウレタン樹脂由来の合成皮革は動物にやさしいけれど、土に還らないから環境にはやさしくない』とか。

その点、アップサイクル素材は、いらなくなったものを再活用するので矛盾がありません。それに気づいてからは廃材にフォーカスし、日頃からヒントを探すようになりました」

ヴィンテージ生地や古着などを素材にしてみたこともあったそうですが、これらは廃材ではなく、売り物として成立しているもの。お店やイベントで使われる布製のポスターにも着目したものの、入手ハードルが高く感じたと、齊藤さん。

そんなあるとき、雨が降った渋谷の道端が、傘だらけになる光景を目にします。その瞬間、数年前に見たニュース映像がリンクしたと言います。

「ビニール傘の廃棄問題について知ったのは、ニュースがきっかけでした。ビニールが金属に絡まってしまうため分別が難しく、リサイクルできないので、そのまま海外の埋立地へ送られることもあると知ったんです。自分たちの便利さのために、他国の人たちを犠牲にしてしまっているという事実にゾッとしました。

そのときすぐに、なにかアクションを起こそうとは考えていなかったのですが、素材探しをしているなかで、このニュースのことを思い出したんです。ビニール傘はどこにでも溢れているけれど、『日本一所有権がないもの』と聞いたことがあって。

みんなの生活のなかに当たり前にあるのに、こんなにも意識が向けられていない、ビニール傘をバッグの素材に使ってみようと思いました」

こうして、“ビニール傘”という素材にたどりついた齊藤さんは、学校の友人とアイデアを共有し、制作をスタートさせます。駅ナカでゴミを回収している清掃員や、コンビニの店長に声をかけて傘を譲ってもらい、素材を集めました。

「最初はビニール同士を接着剤でくっつけてみたのですが、汚く見えてしまって。実験を繰り返すなかで、アイロンでプレスする方法にたどりつきました。これなら、本来ビニール傘が持つ防水性の高さや、汚れへの強さなどの特性を残すことができるんです」

現在は、鉄道会社や商業施設から買い取り、埼玉の工場で分解と洗浄を行った後、栃木の工場でプレス加工。そうしてできた生地は、都内の縫製工場でバッグに仕立てられます。

取材で訪れた個展“MATERIALIZING”では、傘のビニール素材をマテリアルに、制作過程を視覚的に伝えていた

「ビニール傘はさまざまなメーカーがつくっているので、材質も色もサイズも厚みも違います。熱風で溶かして立体にしたり、カラー傘を組み合わせたりと実験してみて、自分が好きな表情をバッグに取り入れることもあります」

個展では、齊藤さんが実験的につくった、製品化されていないバッグの展示も行っていました。

これらも、生地はすべてビニール傘由来。加工方法や、素材の色を組み合わせることによって、さまざまな表情が生み出されます。

「PLASTICITY」に込めた思い

「PLASTIC」の問題を抱える「CITY」。

ブランド名の「PLASTICITY」は、二つの単語を合わせた造語です。

「東京は不便さに対して製品やサービスでソリューションが提供されていて、消費者としては嬉しいことだけど、長期的に見るとそれが大きな問題を引き起こしていると感じます。

イギリスの大学に留学したとき、お店が閉まる時間が早くて不便さを感じたこともありましたが、それならお店が開いているときに買えばいいこと。そんなふうに、自分なりに解決方法を探せばいいし、そもそも、こんなに便利じゃなくてもいいんじゃないかって。

『ちょっとくらい雨に濡れてもいいや』とか、『ライフスタイルを完璧にととのえなくてもいいや』といった、ゆるさがあるといいですよね」

2020年4月のデビューから、もうすぐ2年。お客さんからの「PLASTICITY」への反応は?

「とても嬉しいのは、まず『おしゃれだ』とか、『かわいい』という目線から入って、『しかも環境にいいんだ』という声が多いこと。

『ライフスタイルに取り入れやすいものを我慢せずに選んだけれど、結果として環境にいいものを選択できている』ということが当たり前にならないと、浸透していかないと思います」

“ビニール傘の廃棄”という課題への解決に向けて歩み出した齊藤さんですが、やっていくうちに、より具体的な課題も見えてきました。

「『PLASTICITY』では、パーツの一部に金属を組み合わせているのですが、ゆくゆくはリサイクル素材のみを使ったり、分解してリサイクルへ回しやすくしたりしていきたいと思っています。デザインと実用性の両立を考えると今はまだ難しいのですが、次のアクションも考えていきたいです」

個展では、ビニール傘をマテリアルにしたランプシェードや写真立てなども。錆をべっ甲のテクスチャに見立てた

2020年のブランドスタートから現在まで、再活用できた傘は1万数千本にも及びます。しかし、年間5000万本以上が廃棄されていることを考えると、「それでは全然足りない」と齊藤さん。

「『10年後になくなるべきブランド』を宣言しているけれど、バッグだけでは再活用できる量が少ないんです。より多くの人に使ってもらうとか、もっと大きなスケールでやっていかないと消費しきれない。今後はバッグ以外の製品にも力を入れるなど、他のアプローチも考えています」

“10年後になくなる”ためには、「PLASTICITY」が廃棄されるはずの傘をたくさんアップサイクルすること以外にも、方法はあるはずです。それは、ビニール傘がリサイクルしやすい製品になることかもしれませんし、消費者が必要以上に買わなくなることかもしれません。

「でも、まずは『PLASTICITY』を知ってもらうことで、便利さや消費について考えるきっかけになってもらえたら。

あらゆる角度からアプローチしていけば、結果的に廃棄されるビニール傘が減り、私たちは素材が手に入れにくくなる。そうすれば、『PLASTICITY』はブランドとして成りたたなくなると思うんです」

「PLASTICITY」がビニール傘素材のバッグづくりをやめるとき、日本はどんな社会になっているのでしょうか。それは、今よりもちょっと良い社会であるはずです。

取材・文:栗本千尋
撮影:飯本貴子

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トートバッグ
廃棄されたビニール傘を人の手で選別、解体、洗浄し、生地としてアップサイクルして生まれたトートバッグです。素材を何層にも重ねて独自のプレスを行うことにより、透明な窓ガラスに流れる雨のような表情、「Glass rain」が生まれます。雨や汚れに強い「Glass rain」の特徴を生かしたトートバッグは、口元のボタンをとめて形を変えることもできます。

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