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実りの時期を襲った台風19号
人とぶどうを育てるココ・ファーム・ワイナリーの実直なワインづくりとは

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実りの時期を襲った台風19号<br>人とぶどうを育てるココ・ファーム・ワイナリーの実直なワインづくりとはの写真

東日本大震災をはじめ日本中で多発している台風、豪雨、地震などの自然災害や、新型コロナウイルス感染症の流行などは、大きな社会変化を及ぼすと同時に、私たちの生活そのものや価値観にも大きな影響を与えてきました。

「知って、買って、応援 ~ものがたりが、ここにある~」企画では、さまざまな変化に屈することなく前を向き、よいものをつくり続ける。 そんな、現場の声をお届けすると共に、実際に作られた商品を紹介していきます。

社会変化を受け入れながら、変化する生活様式により合う形を追求した生産者のこだわり商品は、きっと、あなたの生活にぴったりと寄り添い、豊かさを一緒に育んでくれることでしょう。

◇ ◇ ◇

栃木県の南部に位置する足利市に、国産ぶどう100%、野生酵母による発酵を中心にしたココ・ファーム・ワイナリーがあります。

気温が高く、国内のワイナリーとしては決して有利な気候とはいえない足利市。それでもこの地にぶどう畑が開墾された理由には、知的障がいを持つ人々が暮らす「こころみ学園」の存在があります。

「おなさけではなく質で買ってもらえるワイン」を合言葉に、1950年代から脈々と築かれてきたぶどう畑。しかしこれが、2019年10月に栃木県を襲った台風19号により、大事なぶどうの木もろとも土砂崩れで流されてしまいました。

下の写真で白っぽくなっているのが、台風によって失われた部分。傷を負った生き物のような山肌には、痛々しさが残ります。

ココ・ファーム・ワイナリーのぶどう畑

「台風でぶどうの木は失ってしまいましたが、スタッフと園生は無事でよかった」

ココ・ファーム・ワイナリーで15年間ぶどうづくりに取り組んできた栽培長の石井秀樹さんは、そう言って、今年実りを迎えたぶどうに目を向けます。

お話を聞いて分かったのは、他に真似のできない「三方良し」がベースの生産体制が、評価の高いワインを数々生み出すココ・ファーム・ワイナリーの強みだということ。

取材に伺ったのは、ちょうどぶどうが実りを迎えた秋の頃。山の斜面からはにぎやかな声が響き、機を熟したぶどうの収穫が行われる横で、話を聞きました。

“ここだからできるワイン”に、じっくりと向き合う

ココ・ファーム・ワイナリーで15年間ぶどうづくりに取り組んできた栽培長の石井秀樹さん

メルロ、ピノ・ノワール、シャルドネ――。

これらの有名なぶどう品種は、ワイン通でなくとも聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、足利にあるココ・ファームではどれも栽培していません。

「適地適品種」の考えから、この場所で栽培するのはマスカット・ベーリーAやノートン、プティ・マンサンといった、あまり聞き慣れない品種たちです。

「今収穫しているプティ・マンサンは、フランス南西部のピレネー山脈の麓で作られてきた品種です。足利と環境が似ているところもあり、夏は約40度まで暑くなり、たくさん雨が降るこの場所で育てるのに、適したぶどうなんです」

メルロ、ピノ・ノワール、シャルドネ

山梨県や北海道など、ワイン用のぶどう畑としてよく知られる場所に比べると気温の高い足利。気候に合わない品種だとぶどうの色づきが悪く、いいワインにはなりません。

反対に、場所に適した品種を選べば、病気の発生率も低減するため、薬剤散布を避けることにもつながります。ココ・ファームでは、こうしてできる限り薬剤散布をしない代わりに、とにかく人の手をかけたぶどう栽培をしているそう。

とはいえ、実が干しぶどうのようにシワシワになってしまう「晩腐病(ばんぷびょう)」などのぶどうを苛む病気とは、常に闘わなければいけません。

「うちはぶどう自体に付着している野生酵母のみでワインを造っているので、できるだけ畑の中でぶどうを完熟させ、味わいや香りの成分を育ててあげることが大事なんです。でも、そのぶん病気にかかりやすいというリスクもあります」

病気でダメにならないよう付きっきりで世話をして育てた結果、完熟したぶどうの糖度は約24度。少しいただいて食べてみると、まるでデザートのような甘さです。

収穫したばかりのぶどう

また、野生酵母による発酵は、人の手で規則的にコントロールすることができません。収穫したぶどうは選果後に搾汁され樽やステンレスタンクなどで発酵させますが、その発酵期間もぶどう次第で変わるのです。

「発酵が始まると、ぶどう果汁の表面にCO2ガスがぽこぽこと排出されてきます。4、5日で発酵して、その後一週間くらいで終わるものもあれば、一週間経ってやっと発酵がはじまり、一年以上終わらないものも。同じ品種でも年によって違うし、どうなるかはぶどうにしかわからない。こんな面倒くさいことをしているなんて、周りから見たら、きっと変なことをしているワイナリーだと思われているんじゃないですかね(笑)」

ココ・ファーム・ワイナリー

石井さんの言う「変なこと」とは、つまり「異常に手のかかる作業を好んで選んでいる」という意味。しかし、その理由はココ・ファーム・ワイナリーの創立背景にありました。

自分の名前が書けなくても立派な農夫に

ココ・ファーム・ワイナリー

ココ・ファーム・ワイナリーのルーツは、1950年代にまで遡ります。

当時、特殊学級の担任教師をしていた創立者の川田昇(かわた・のぼる)先生は、急な山の斜面を子どもたちと2年がかりで開墾。教室の机の前では落ち着きがなく計算や読み書きの苦手な彼らが、夢中になれる仕事をつくり出したのです。

そうして開墾した土地に、ぶどうの苗木を植えることにした理由は、「栽培に最も手間のかかる植物だから」。

ぶどう畑の管理は、剪定や枝拾い、摘房作業から畑の草むしり、カラスよけ、傘がけなど、ほかの果樹や野菜の栽培よりも、一年中やることがたくさん。しかし、こうした面倒で懸念されがちな作業が多ければ多いほど、子どもたちにとっては夢中になれる対象が絶えないということ。勉強が苦手で運動も得意ではなかった子どもたちも、やり尽くせないほどの農作業と向き合ううちに、自然と身も心も鍛えられていったといいます。

こころみ学園

のちに知的障がいを持つ人たちの施設として、この場所に「こころみ学園」が創設されたのは、1969年のこと。彼らが育てたぶどうがワインとして生まれたのは、ぶどう畑開墾から26年後、1984年でした。

それ以来変わらず、足利の地でこころみ学園の園生と共にじっくりじっくり育てられてきたのが、このぶどう畑であり、ココ・ファーム・ワイナリーのワインです。

「畑の管理からワイン造りまで、園生はココ・ファームになくてはならない存在です。有名品種のぶどうを育てたいと思う栽培家も多いかもしれないけど、僕はここで、園生と一緒にやる仕事が好きなんです」

こころみ学園

照れたように話す石井さんの奥では、「カンカンカンカン!」と、園生が鳴らすカラスよけの音が響きます。

「一生懸命働く園生ばかりかと思いきや、サボっている園生もたまにいます(笑)。そういう部分も含めて、人間らしくていいなって思うんですよね。それに、普通の農園だったらできないことも、園生と一緒だと実現できます。例えば、ついさっき『明日は違う敷地にあるぶどうの収穫をしよう』と、急遽決めることになったんですが、普通の農園だったら組合に所属する外部の農園の人に収穫を手伝ってもらう場合が多いので、そんな動き方はできないんですよね」

ココ・ファームは県内に合計6ヘクタールのぶどう畑を所有していますが、園生と一緒だからこそ、ていねいな手作業を守りながらこの規模でのぶどう造りができるのだそうです。

台風被害で、実りを迎えたぶどうの木が犠牲に

ココ・ファーム・ワイナリー

そんなココ・ファームに大きな被害をもたらしたのが、2019年10月に栃木県を襲った台風19号でした。

もともと足利市は、比較的自然災害の少ない土地。しかし、台風19号による豪雨は平均斜度38度のぶどう畑の一部を、実りの時期を迎えていた木もろとも滑落させてしまいました。山の頂上まで向かう道も土砂が崩れ、復旧作業には多くの時間と労力が必要となりました。

「土砂崩れが起きた山頂の畑には、ちょうど収穫を迎えたぶどうがありました。山頂への道も崩れて車が通れなくなってしまったため、台風の2日後にバケツリレーの要領でなんとか500kg分を収穫し、毎年11月に行っている収穫祭に向けて大慌てで畑の応急処置をしました。畑の一部を失ったのは残念ですが、園生やスタッフが無事だったのは救いですね」

ぶどう畑の真ん中には、流されて丸坊主になった部分

ぶどう畑の真ん中には、流されて丸坊主になった部分が今も痛々しく残ります。さらに、畑のすぐ横にある山の部分には、取材時にも修復されないままの土砂崩れの跡がありました。

ぶどう畑に程近い場所に施設があるこころみ学園のことを思うと、「無事でよかった」という石井さんの言葉に重みを感じます。

「おなさけではなく質で」愛されるワインを

愛されるワイン

収穫できるぶどうの数が減ってしまったからといって、ワイン造りに手を抜くことは当然できません。

ココ・ファーム・ワイナリーの造るワインは、一本あたりに使用するぶどうの量が1.2kg。一般的なワイン造りでは1kgが主流なので、それよりも多くのぶどうを使ってワインが出来上がります。

愛されるワイン

畑の向かい側にある醸造所には、新鮮なぶどうのほんのり甘い香りが漂います。

収穫したぶどうを絞ってワインにするときの「搾汁率」は、ぶどうのおいしい部分だけを引き出したいので一般的な70〜80%よりも少ない50〜60%になることも。搾った果皮や種は、牛の飼料や畑の肥料になるそうです。

「ココ・ファームがはじまったときから大事にしているのは、『おなさけではなく質で』愛されるワインを造ること。福祉の視点でココ・ファームのワインに関心を持ってくれる人がいても、おいしくなければ継続して買ってはもらえませんよね」

日本ワインの認知度が高まった近年。ココ・ファーム・ワイナリーのワインは、国際的なサミットで提供されたり、国際線ファーストクラスで採用されたり著名なソムリエの一押しとして紹介されたりと、一定の評価と知名度を得ています。

愛されるワイン

「日本ワインでも、ぶどうやワイナリーの場所によって味わいは様々です。まずは北海道や東北などの冷涼なエリアのワインと、温暖な関東以南のワインを飲み比べてみると、好みがはっきりと分かれて面白いですよ」

最後にココ・ファームに併設されたレストランで数種類の試飲をさせてもらい、一つひとつ全く違った香りと味わいに驚かされました。

「同じ品種のぶどうで造ったワインでも、収穫年や収穫地によって味は異なります。だから、これからもっと、ワインも産地や生産者で買う流れが増えたら嬉しいですね」

「今年のぶどうはいい出来です」と、昨年の台風の痛手よりも今に目を向ける石井さん。

園生とワイナリースタッフのタッグで仕込まれるワインは、静かに、今日も発酵を続けます。


取材・文:山越栞

ココ・ファーム・ワイナリーの商品はこちら

ココ・ファーム・ワイナリーのワイン

栃木県・足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」は、平均斜度38度の急斜面でぶどうを栽培しています。日当たりのよさと、丁寧なぶどうづくりに裏打ちされた、確かな品質をぜひ味わってみてください。

編集

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い会社です。ライター・編集者を中心に、全国のクリエイター、生産者、職人、地方行政と関係を築いています。わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。


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