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エルマの読みもの

「異質」な市場?
豊洲市場の住民という生き方

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<center>「異質」な市場?<br>豊洲市場の住民という生き方</center>の写真

豊洲市場「住民」の井上です。
2004年以来、市場の新参者として過ごさせてもらっています。世界中から人と食品が集まる市場の面白さと、私が日々どのように過ごしているかをお伝えしていきたいと思います。


豊洲市場と聞いて、まず思い浮かぶのは「食の宝庫」だということでしょうか。
特に魚は、「おいしそう」というイメージがあると思います。豊洲はまだかもしれませんが、少なくとも築地はそうでした。


でも、「豊洲産」の魚や野菜はありません。
豊洲はタワーマンションがひしめき、対岸の晴海や有明にはオリンピックの選手村の工事が進み、近未来的な乗り物「ゆりかもめ」が頭上を走る。そんな場所です。

地方の市場に行くとちょっと違って、基本は地元のものが集まり、一部は近隣の飲食・小売業の方が購入し、一部は大都市に運ばれていきます。身近に海があり、山があり、なんとなく魚や野菜が集まりそうだな、という雰囲気があるのです。

豊洲は「異質」です。

この大都市の中にこれだけの食品が、しかも日本中・世界中から集まってくるというのが、僕にはとても不思議に感じます。地方の浜や畑といった景色や、それを水揚げしたり栽培したりしている人を知っていると、そのギャップに妙な感覚を覚えるのです。
そんな、何でもあるようで、何もない豊洲市場の代名詞が「マグロ」だと思います。
これは、実際に獲られる産地よりも豊洲の方が有名だったりする、世間も認めている「豊洲の華」となる魚です。

事実、豊洲市場の水産部はマグロであふれています。

2019年現在で488の仲卸がある中、マグロを扱っている「大物業界」という団体に所属している仲卸は148。3件に1件はマグロ屋となる計算になります。豊洲にこれだけマグロ屋が多いのは、江戸っ子のマグロ好きと豊洲市場住民のマグロ好きが理由です。

1匹で3億円! 仲卸を魅了するマグロのロマン

2019年の年始、1匹で3億円を超えるマグロが出たのを覚えている方も多いと思いますが、マグロは博打(ばくち)性の高い魚です。

マグロの金額を決めるのは「セリ」と「相対」という2つの方法があります。「セリ」は魚を仲買人達が価格を(高く)競り合って購入する方法、「相対」はあらかじめ価格を決めて購入する方法です。

いずれにしても、市場で仲買人達が買った価格に一定の利益をのっけて、いつでも料理人や小売業のバイヤーが買ってくれるかと言うとそうじゃありません。

マグロの目利きは尻尾の断面と割られた腹という少ない条件からするものなので、当然、当たりも外れもあり、100万のマグロが150万になることもあれば、80万にしかならないこともあります。

その博打的な要素が仲卸さんを魅了しています。

ある時「背中を割ったりして状態を良く見て、もっと確実に欲しいものを仕入れられるようにならないのか?」と質問をしたところ、「それじゃ、面白くないじゃん」との回答でした。これだと、夢もロマンもないのです。

市場にいる長い時間をどう幸せに過ごすか?

豊洲市場の住民は総じて長時間労働です。

朝は2時頃から始まって、終わりは昼の2時とか。人によっては夕方5時位までいる方もいます。でも、(いや、人によるでしょうが)みんな元気そうに見えるのは、「働いている時間が楽しいから」なんじゃないかと思います。

休日に釣りに出かけたり、畑で作物を作ったりする方がいると思いますが、市場での時間はその楽しさに似ているなと思うのです。目の前に魚や野菜があると、なんとなくすがすがしい気分になり、良い魚を仕入れられるとワクワクします。

こういう気持ちになれるのは、何気ないことですが、結構幸せです。

「市場らしい生き方」をするために大事なこと

今、養殖のマグロが増えています。

2018年度の養殖の黒マグロの出荷量は1.7万トン。一方、天然の本マグロは0.9万トンで、すでに養殖物が天然物を上回っています。

豊洲に来るマグロには5種類あって、品種名で言うと黒マグロ(通称:本マグロ)、ミナミマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロです。その内、日本で養殖されているのは最も人気のある黒マグロになります。

養殖の技術は年々向上し、実際味もよくなっています。

銀座にあるような鮨(すし)屋でも、ランチは養殖を使うお店も増えているそうです。
天然物にこだわるなら、メバチやミナミマグロ、冷凍本マグロという選択肢もありますから、養殖のマグロはそれだけおいしくなっているのは事実だと思います。

養殖のマグロが増えることで問題になるのが、さっきの楽しさというか、生き方の部分で、天然物を「自分の目利き」で仕入れ、お客様に「さすが」と言ってもらうという、「市場らしい生き方」がしにくくなっています。

これって外からは見えにくい部分だと思います。

感傷的になるわけではありませんが、この「市場らしさ」という経済合理性とは違う価値の部分にちゃんと向き合った方が良いなと思っています。

好きな仕事を残すために、その大元になること(この場合は天然マグロを扱うこと)って大事だなと思います。もちろん、資源の管理をしっかり意識した上で。

百貨店からも姿を消した「天然の本マグロ」を販売する

養殖が天然を上回るようになったということは、実はひそかに天然本マグロが店頭から姿を消していると言う事です。

今では百貨店の店頭も養殖ものが主流となっていて、天然の本マグロを食べられる場所は限られてきています。特に近海の100kgを超えるようなマグロは、鮨屋や割烹(かっぽう)でしか出されなくなっているようです。

それなら、逆に家で食べられるようにしたらどうか? と考え、市場のみんなで極上マグロのブロック販売をスタートさせました。最低でも1kg、基本は2kg、家族4人では絶対に食べきれない量です(笑)。

鮨屋や割烹にいくような極上マグロを、皮も血合いも取らずに、サクにもせずにそのまま届けます。今は動画もブログもあるのだから、さばくのは何とかなるだろうと。それで、家で鮨を握ったら楽しいんじゃないかと考えました。

見よう見まねで、100点の出来ではなくとも、極上の鮨が家で出てきたら感動だろうなと。

銀座の鮨屋で出されたかもしれない大間のマグロを家で

「家でできそうもない事を、家で出来たら楽しいな」という発想になったのは子供ができた時でした。我々夫婦は食べるのが好きでよく外に食べに出かけていたのですが、赤ちゃんが生まれてからはそうはいきません。

今、その子は10歳になりましたが、いまだにそれなりの鮨屋には行けません。
「海老天がのった鮨はないの?」とか板さんに聞くから怖くて。そう考えると、家族でファミレス以外の外食ができない期間って案外長いのだなと感じます。

そんな時に動画やブログを駆使して鮨を握ってみましたが、案外できるものです。

コツが分かってくると、それなりのクオリティで握れるようになります。自分がそこそこできるようになると、今度は友人の家族をお招きして鮨パーティーを開きました。

「手巻き寿司」ではなく本当の「鮨」、これにはみんな驚きます。
しかも、用意するのは「大間のマグロ」だったりしますから、家族パーティーの域を超えた素材です。
家で仲間や家族と食べるからこそのおいしさってあると思います。

一番違うと思うのは、とてもリラックスして食事ができるという事です。作って食べて飲んで、疲れたら寝る、みたいな。狩猟民族だった頃の食事ってこうだったのかなとか思います。

銀座の鮨屋で出されたかもしれない大間のマグロ。

何かの縁で我が家に来てくれ、握ったのは素人で申し訳なかったですが、どの鮨屋よりも「おいしい」の声は飛び交い、笑顔にあふれていました。


筆者紹介


豊洲市場在住 食のプロデューサー
井上 真一

豊洲市場在住 食のプロデューサー 井上 真一

2004年にスタートした豊洲市場ドットコム(旧築地市場ドットコム)。
以来、100年以上続く店舗がひしめくなか、市場の新参者として過ごさせてもらっています。世界中から人と食品が集まる市場の面白さと、「肉食系」の男女が集まる市場で、「雑食系」の私がどう過ごしているかをお伝えしたいと思います。



どこにでもあるものより、なかなかないもの。
太陽の香りがしたり、人の手の温度を感じる。
大事に生まれたものは、大事にしたくなるものです。
そうだ。こだわりは、ごちそうなんだと思う。
もっと知ってほしいもの、あなたに届けたいもの、見つけました。
好きって、エールなのかもしれません。