2020.12.25
部位によって変わるおいしさ。
豊かな食の楽しみ方。
豊かな食の楽しみ方。

豊洲市場「住民」の井上です。
2004年以来、市場の新参者として過ごさせてもらっています。
世界中から人と食品が集まる市場の面白さと、私が日々どのように過ごしているかをお伝えしていきたいと思います。
牛肉を食べる時には、部位ごとに分けて購入するのが普通だと思います。ロースとか、バラとか、モモだとか。焼き肉屋なんかに行くとそれがさらに細分化され、モモならウチモモ・ソトモモ・ランプ・イチボ・シンシンなどに分かれています。こだわった店だと、その部位ごとで切り方を細かく変えていて、同じ肉でもこんな味が違うのかと感心させられます。
これが世界中同じかというとちょっと異なり、肉の歴史の古いフランスで好まれる背中の肉の最高峰であるヒレ肉は、ミニョン、トゥルネード、シャトーブリアン、テートなどと日本ではなじみのない名前で細かく分かれていたりします。
マグロの部位は細分化されている

部位ごとに切り分けられたマグロ
例えば大トロの部位でいうとカマの複雑な骨の隙間にある「カマトロ」や、人間でいうへそあたりの蛇腹状になっている「砂ずり」、牛肉でおなじみの脂が大理石のように散った「霜降り」といった風に呼ばれて分けられています。
名前はないのですが血合いの付近の赤身はコクがあるとか、ヒレの下の分かれ身は中トロより上質な味とか、色々わかれていてその違いを楽しんでいるようです。
マグロの目の裏の肉が最高峰

解体されるマグロの頭
尾の身のうまさは牛肉でいうところのすじ肉のうまさに近く、筋が強いので刺身ではとても食べられませんが、煮ると筋はプルプル・ネットリになります。
以前、よせばいいのに本鮪の頭を購入した事があって、家のオーブンレンジで焼いたことがありましたが、もうオーブンがパンパン、焼くとマグロの肉汁がオーブン皿から溢れて漏れだし大惨事になりました。そこまでして食べたかったのは、マグロの目の裏の肉です。

本鮪のアタマ。非売品。


左が脳天、右がカマ。
果物の甘さも部位により違う
果物も実は違います。小さな実だと気が付きにくいですが、例えば桃位大きなものになるとわかりやすく、果頂部と(尖がった部分)と枝側では2~3度は糖度が異なります。明らかに甘さが違います。ですので、縦ではなく横に半分に切って、バレないように果頭部だけを自分のお皿にのせれば、おいしい部分だけを堪能する事ができます。

写真の上の方が果頂部。上が甘い。
ですので、こだわった果物屋では、果頂部を下にして保管し甘さが全体に回るようにしていたりします。ちなみにパイナップルは葉がついてない方が下、バナナは軸のある方が下です。
ややこしいのが葡萄です。葡萄は枝側の粒の方がおいしいです。なぜでしょう?
これは枝に近い方から熟していくからです。しかし1粒の糖度はやはり果頂部の方が甘いので、味の違いを極めたければ、粒を半分に切って上下で食べ比べるとその違いがわかります。
すごいのがみかんです。みかんの薄皮(じょうのう)を剥いて中を取り出すと、小さな「砂じょう」というつぶつぶで構成されているのがわかります。

短く丸いのと、長く細いもので味が異なる。
実がなる場所や畑の立地でも味は異なる
さまざまな栽培技術が進歩していても、果実は自然の影響を最も強く受けます。同じ生産者でも、日当たりの良さ土壌の違いにより、そこで生る実の味は大きく異なるんです。産地に行くといつも同じ畑を見せてくれるので何気なく聞いてみるとやはり良い畑、まぁまぁの畑があるそうで、われわれのような仕入れ担当を連れていくのは良い畑だそうです(笑)。あのフランスのブルゴーニュワインで100万円のものもあれば2000円程度のものがあるのはそんな葡萄の味の違いが根本的な理由です。

1級の畑は日当たりよく、1級の木は木全体に陽が当たる
そういう、一見どうでも良さそうな事を意識しながら食べてみると不思議とおいしく感じます。ぜひ、一人で寂しい夜などに、みかんの房を切り開いて、つぶつぶの味の違いを堪能してみてください。
筆者紹介
豊洲市場在住 食のプロデューサー
井上 真一

2004年にスタートした豊洲市場ドットコム(旧築地市場ドットコム)。
以来、100年以上続く店舗がひしめくなか、市場の新参者として過ごさせてもらっています。世界中から人と食品が集まる市場の面白さと、「肉食系」の男女が集まる市場で、「雑食系」の私がどう過ごしているかをお伝えしたいと思います。