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エルマの読みもの

「ブリブリの刺身」を求める
鮮度へのこだわりが作り上げたもの

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豊洲市場「住民」の井上です。


2004年以来、市場の新参者として過ごさせてもらっています。
世界中から人と食品が集ま
る市場の面白さと、私が日々どのように過ごしているかをお伝えしていきたいと思います。


豊洲市場は、徹底した衛生管理・温度管理をしている閉鎖型の施設です。市場内は1年中一定の温度に保たれ、豊洲市場を通じて、日本中のお店に鮮度の良い海産物や農作物が広がっていきます。


敷地面積は約40.7ha(築地市場の約1.7倍)。
この巨大なスペースを一定の温度に保つには当然、それ相応のコストがかかります。そのリターンとして得たかったものが「海産物や青果物の鮮度」です。


では、「鮮度を維持する」とは何なのでしょう? それは、「腐らせない」という事なのでしょうか?

魚の最上級の食べ方 「刺身」と魚の保存

日本人にとって、魚の最上級の食べ方は生で食べる事、すなわち「刺身」です。

「魚は手間をかければかけるほど価値が落ちるからやりにくい」と、豊洲市場ではボヤキが聞こえます。手間をかけて調理したのに、刺身よりも価値が落ちてしまうということです。

冷蔵する手段がなかった時代、魚はめったに食べることができない貴重なものでした。生の魚はご存じの通りすぐに腐ります。魚が大漁だったとき、何とか日持ちをさせて長期間食べたいなと古代の人は考え、道具がなくても日持ちさせる技術「天日干し」が生まれます。干物や乾物です。
この乾物は、食料の保存という本来の目的から転化し、意外にも神聖なものへと変わっていきます。その最たる例が「カツオ節」です。

カツオ節は単にカツオを乾かしたものではありません。6カ月もの年月を経てカビ付けをし、うま味を凝縮させます。カツオ節は「和食」の根幹にあり、日本の代名詞ともいえる味になりました。

「乾かす」からしばらくすると「塩蔵」という技術が生まれます。

塩濃度が10%ほどで、ほとんどの微生物(特に腐敗菌)の増殖が阻止され、25%を超えると大部分の微生物は死滅します。ここで干物や乾物よりも刺身的な保存食、「塩辛」が生まれます。

日本人は乾物だけでは満足しなかったようです。特に酒飲みは。

刺身の代わり? かまぼこの誕生

さらに新しい技術、「磨り潰して塩を入れて火を通す」が生まれます。「練り物」です。

練り物は大きく分けて3つあります。
ちくわのように焼かれたもの、さつま揚げのように揚げられたもの、そしてかまぼこを代表する蒸されたものです。同じすり身を原料にしても地域により形が変化していきました。

塩を加えて魚を練ることにより、「プリッ」とした食感が生まれます。この食感とうま味が人気となり、特におでんなどの鍋商材には欠かせないものとなりました。
練り物の中でもかまぼこは、「正月を飾るもの」として特別な扱いを受けていきます。

その立役者は小田原の職人たちでした。小田原のかまぼこは参勤交代で箱根路を通る各国の大名や侍に賞味され、評判を呼び、さらに磨かれていきます。

独特の歯切れのよい食感と歯に絡みつくような粘り、そして光沢のあるあでやかな形姿は何を目指していたのか? それが「刺身」だと言われています。

前述したように、刺身はめったに食べられない貴重品でした。プリっとした鮮度の良い白身魚の味を日常的に味わいたい。そんな思いが広がり、現在のあのかまぼこの味へ磨かれていったようです。

腐敗と臭いを防ぐ「神経締め」という秘儀

ここで新たな保存の手法が生まれます。

生の状態を別の形で再現したのがかまぼこだとすると、そのままの状態を保とうする技術「活き締め」です。活き締めは魚が獲られてすぐに、首? の部分に刃を入れ、臭みを生み腐敗を進行させる血液を抜く技術です。

この活き締めは江戸時代にはあったらしく、日本においては魚の鮮度を保つ伝統的な手法でした。そこからさらに進化し、秘儀が生まれます。「神経締め」です。

神経締めとは背骨の上にある神経を、針金のような道具で抜き取り、魚の死後硬直を遅らせる手法です。

魚は死後硬直すると体内の血が抜けにくくなり、死後硬直が解けたころから腐敗が始まり血の臭いが出ます。神経締めと血抜きを合わせてすることで、腐敗が遅くなり臭いも少なくなります。

神経締めの効果は絶大で、そこから新たな流派が生まれます。
(津本式で血が抜かれた魚)

「津本式」と呼ばれる、高圧で水を噴射して血・神経抜きをする方法で、この手法を行うと全身からキレイに血がなくなります。そうすると腐敗がとっっってもゆっくりになり、魚を寝かせてうま味を引き出す「熟成」が、魚でもできるようになります。

鮮度を維持するというやや保守的な手法が、さらに上のうま味を目指すという革新的な内容になってきました。

獲れたてに近い味を実現する「冷凍技術 」へ

(リキッド冷凍された魚)

さらに時代は進み、「冷凍」という技術が生まれます。特筆すべきは「リキッド凍結」と「CAS凍結」です。

冷凍の最大の欠点は何か? それは解凍時に出る「ドリップ」です。
ドリップしてしまうことにより身はパサパサになりうま味も無くなります。それを解決したのがこの2つの凍結方法です。

リキッド凍結は「液体を使って凍結」させる方法で、CAS凍結は「磁力で振動させて凍結」させる方法です。

そもそも、なぜ凍らせて解凍するとドリップが出るのかというと、魚の中の水分が凍って大きくなりそれが細胞壁を壊すからです。この「液体」と「磁力」によって、その破壊を防ぎます。

この方法で冷凍されたものは、刺身で食べても違いがほとんどわかりません。実は著名な和食料理店でもこの冷凍の魚が使われていたりします。

つまり、ついに、冷凍庫さえご自宅にあれば、いつでもどこでも獲れたてに近い味が味わえるようになったのです。

本能的に「ブリブリ」の魚を求めてしまう私たち

ここで1つの疑問が生まれます。獲れたての魚はおいしいのか?

魚のうま味成分は獲れたてよりも、ある程度時間をおいてからの方が増えていきます。肉の熟成などはまさにそれで、たんぱく質を分解しアミノ酸になって初めてうま味になります。

つまり実際は、「鮮度が良いのは大事だが、獲れたてはそれほどおいしくない」のです。

でも、なぜそれほどまでに鮮度の良さを求めるのかというと、生で食べることを最上とする日本人的な感覚があるからなんだろうなと思います。「ブリブリの魚への憧れ」です。

実際、海に面した地域の刺身はブリブリで食べることが多いです。かむのも困難なほど張りがありますが、地元の人間はこれじゃないと満足しないというのです。

私も海近くの漁村にいったらブリブリを食べたい。うま味がどうのとかは横においといて、やはりあの食感を味わいたいと思います。

鮮度の良い魚は腐ったものを食べないという事の裏返しでもあります。体が本能的に無意識的に美食とは別のところで、ブリブリを求めていると私は思っています。

鮮度を維持するための巨大な仕組み

「ブリブリの刺身の味」を求めて、ある者はかまぼこを、ある者は神経締めを、ある者は冷凍技術を作ってきました。

そして、もう1つ鮮度の良さに欠かせないのは「早く届ける事」、すなわち流通です。
浜に上がった魚をいかにはやく食卓に上らせるか? そんな事を考えてできたのが今の流通であり市場です。

入荷される魚の入った発泡スチロールには、バーコードがついているわけでも、ラベルが張られているわけでもありません。市場の業務は恐ろしく細分化されていて、トラックで持ってきた荷物を運ぶ人、セリをする人、買われた荷物を運ぶ人、みんな別の会社の人です。

それがどうして間違わずに小売店や魚専門店に届けられるのか不思議でならないのですが、あうんの呼吸で荷物が振り分けられていきます。

日本人は「ブリブリの刺身の味」を求めて、結果的に流通や市場という巨大なものを作るまでに至ったのかと思うとすごい。

自分の求める物のために、小さくとも一歩踏み出してみようかなという気になります。私も頑張ろう。

筆者紹介


豊洲市場在住 食のプロデューサー
井上 真一

豊洲市場在住 食のプロデューサー 井上 真一

2004年にスタートした豊洲市場ドットコム(旧築地市場ドットコム)。
以来、100年以上続く店舗がひしめくなか、市場の新参者として過ごさせてもらっています。世界中から人と食品が集まる市場の面白さと、「肉食系」の男女が集まる市場で、「雑食系」の私がどう過ごしているかをお伝えしたいと思います。



どこにでもあるものより、なかなかないもの。
太陽の香りがしたり、人の手の温度を感じる。
大事に生まれたものは、大事にしたくなるものです。
そうだ。こだわりは、ごちそうなんだと思う。
もっと知ってほしいもの、あなたに届けたいもの、見つけました。
好きって、エールなのかもしれません。