2020.06.15
家庭菜園にも使える!
有機農家さんに聞いた野菜を育てる3つのコツ

野菜づくりは、土や水、空気などいろいろな要因に影響されるため、簡単にうまくいくわけではありません。しかし、家のポットや家庭菜園で少しでも上手に野菜が育てられたら、それは暮らしの喜びになるのではないでしょうか。
今回は、大分の有機農家、農園てとての深瀬隆治、雅子さんご夫婦に、誰でも実践できる野菜づくりのコツをうかがいました。それぞれの生育環境で多少の差は出てきますので、ご参考としてご覧ください。
コツ1 野菜の個性、ルーツ(出身地)、特徴を知る

最初のコツは、それぞれの野菜の個性、ルーツ、特徴を知ることです。野菜の原産地を知ることで、暑さに強いのか、寒さに弱いのか、などの特徴を知ることができます。
まずは、有機農家 深瀬さんの目から見た、野菜の個性、特徴のとらえ方、さらに、誰でも育てやすい野菜の種類や、その育て方のコツをうかがいました。

それぞれの野菜の個性を知るには、野菜のルーツ(出身地)や産地、特徴を想像すると育てやすいかもしれません。
例えば、トマトはナス科でアンデスの高地出身です。日差しが強く、カラっとした高冷地の岩場にも育つような環境が原産ですので、肥料はそれほど多くはいりません。そして、ミネラルが豊富で、乾いた気候が好きです。
トマトは、高温多湿の日本では育てにくい野菜ですが、水はけのよいプランター栽培は向くと思います。家庭菜園で育てるなら、水はけを良くするために高ウネにすると良いです。大玉よりミニトマトが原種に近く丈夫なのでおすすめです。
と、雅子さんは話します。
さらに、トマトは、水あげを制御して、乾燥気味に育てると、トマトの実自体が甘くなるともいわれます。初心者は、ミニトマトが、比較的育てやすいようです。
また、他の野菜についてもうかがいました。

トマトと同じナス科のナスはインド東部出身といわれ、熱帯地方出身です。高温多湿にも強く、熱帯地方の土は腐植も早く肥えていますので、多肥に向きます。肥料をあげ続けることで、長く収穫できます。

さらに、「育てやすい野菜」と「育てにくい野菜」について、うかがいました。
育てやすい野菜は、ハーブです。香りが強く、丈夫なものが多いです。コンパニオンプランツ*としても役立ちます。(例えばトマトとバジルやニラ、きゅうりとネギなど)
育てにくい野菜は、トウモロコシや白菜ですね。トウモロコシは虫がつきやすいだけでなく鳥やネズミやタヌキなど、いろいろな動物たちがねらってきます。しかし、地域や土壌の状態によってはよくできる時がありますので、一番のおすすめは「季節のもの(今なら夏野菜)」「食べたいものを作る」です!
夏野菜を植えるには時期的に少し遅めですが、まだまだ間に合います(6月上旬)。ナス、ピーマン、ししとう、トマト、クウシンサイ、モロヘイヤ、オクラ、さつまいも、このあたりは発芽に時間がかかるので苗から育てると良いです。インゲン、枝豆、キュウリ、かぼちゃ、トウモロコシなどは種からでも大丈夫かな。
*コンパニオンプランツとは、農学や園芸学において、近くで栽培することで互いの成長によい影響を与え、共栄しあうとされる2種以上の植物の組み合わせやその植物のことをいいます。
雅子さんの話をうかがっていると、まずは「食べたい」という意欲が、うまく育てるための最初のキーポイントかもしれません。
そして、それらの野菜の個性、ルーツ、特徴をきちんと知ってから、栽培をはじめると、長く楽しめそうです。

雅子さんが手に持っているのは、固定種のきゅうり。きゅうりは上に伸ばして栽培するものと思っていましたが、地面をはわせて栽培されています。経験が成せる栽培方法ですね。

野菜栽培に困った時は、経験のある農家さんに聞いてみるというのも、ひとつの解決方法といえます。
深瀬さんの田畑では、年間を通して数多くの有機野菜や米が作られています。畑に住む生き物、微生物の働きを生かし、自然循環にそった育て方は、地元大分県のみならず、全国から注文が入るおいしい野菜に育っています。
深瀬さんの有機野菜作りの思いは前回の「人も自然の中にいる。オーガニックの野菜を食べよう」でも紹介しています。
コツ2 「森の土」をめざして。発酵の循環型の土づくり

農薬や化学肥料を一切使わずに野菜作りをすると、虫に食べられやすく、「有機野菜=虫食い野菜、小ぶりな野菜」と思っている方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。
その逆で、農薬や化学肥料に頼らず、微生物の働きを生かしながら、草や堆肥が発酵する力で作られた土壌で育つ有機野菜は、虫に食われにくくなるといわれます。その理由は、野菜が健康的な自然に近い状態で育つと、農薬を使った野菜よりも、自身を守るもともとの力が強くなり、虫に食べられにくい野菜に育つといわれるからです。ただ、甘くておいしい野菜は、人間と同じく虫や他の生物も好きなようなので、食べられてしまうことはあります。それも、自然の摂理、循環の中の一幕であるのでしょう。

雅子さんに野菜栽培がうまくいく土づくりについてうかがいました。
私の野菜づくりのコツは森をイメージした土づくりです。
森の中の土をイメージしてください。
自らの葉っぱが落ちて積り、それが腐葉土となって自らや次の世代の栄養分になります。多少の小動物のフンが落ちて肥料になりますが、森の木々は人為的な肥料も与えないのに葉っぱはいきいきし、薬も必要とはしません。
土は葉っぱのベッドでふかふかしており、ベッドの下は水分も程良く、腐植は土中の昆虫や微生物の働きで上から下へと進みます。表面は分解途中、それが下へ下へ進むにつれて分解され、肥え、完熟してゆくのです。
自然の土の中では微生物がしっかり豊かな土づくりをしています。
これをイメージした土づくりや手入れをします。
刈り取った草はできるだけすき込む(土の中に入れ耕す)のでなく、上に置いてやるのがベストで、土の中に混ぜてやるのは発酵や腐食がしっかり進んだ完熟たい肥という事になります。
追肥の場合も、基本、肥料を上に置く感じです。(未分解の堆肥や草を土にすき込むとそれを分解するための虫たや菌が集まり、ガスを出すのですが、それが植物の根っこに悪さをしたりするからです)乾燥防止のために落ち葉やわら、草をかけてあげます。

森の木々のように自らの栄養分で肥やすことができるようになったら、肥料はたくさんはいりませんが、はじめは「質のよい完熟たい肥や腐葉土」が使えると、とても良いです。
また、堆肥や腐葉土(山のミネラル)だけでなく、カキ殻やサンゴなどの生物が海底に堆積して変化し生成された「ドロマイト」から作られる苦土石灰など(海のミネラル)も少量入れてあげるとバランスが良いです。

土の栄養もバランスが必要で、とにかく肥料をあげれば良いというわけではありません。
農薬や化学肥料を使わないということは、虫に負けない、病気にかからない、丈夫な野菜を作ることが前提になってきます。
植物を支えているのは、根っこで、この根っこの周りの環境(空気や水、栄養分、微生物など)が程良いバランスを保つことを目指します。土が健康ならば、野菜も健康です。
この森の土をイメージした土づくりは腐食や発酵の「循環型の土づくり」です。
このように土の中の発酵を大事に利用する有機野菜づくりは、有機農家さんの間では、共通認識となっています。
家庭菜園の方におすすめなのが、長崎の「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんが進めている生ごみリサイクルの畑づくりです。
生ごみリサイクルの畑づくりとは、家庭にある余った野菜の皮などを、しっかり発酵させて肥料をつくる手軽なやり方です。
わが家は堆肥や鶏ふんをなども使いますが、学ぶべきところがとても多いやり方です。非常にヘルシーで循環型。これからの時代に知っていて損はないと思います!
と、雅子さんはくわしく教えてくれました。
おいしく健康的な野菜づくりの第一歩、有機農家さん直伝の「循環型の土づくり」をぜひお試しください。

コツ3 野菜づくりは風景や収穫後まで丸ごと楽しむ

野菜づくりの一番の楽しみは、収穫ですが、野菜が育っている風景や、花が咲いている様子を楽しむのも醍醐味(だいごみ)のひとつです。
深瀬さんの畑では、季節ごとに野菜たちが育つ風景を楽しめます。雅子さんが、野菜の花を楽しむポイントを教えてくれました。
野菜の科を覚える必要はないのですが、同じ科の野菜の花は、色や大きさが異なりますが、形が似ています。野菜を作ったなら花まで見るとおもしろいですよ。
例えば、ナス科…トマト、ナス、じゃがいもー花の形が星型です。
アブラナ科…小松菜、キャベツ、カブーみんな菜の花になります。
セリ科…人参、パセリ、セロリー白く花火のような形の散形花で香りがします。

こちらは、にんじんの花。普段なかなか見ることができない花ですね。野菜の収穫の後には、菜花やこういった野菜の花を愛でることができます。この野菜にはこんな花を咲かせるのか、という新しい発見があるかもしれません。

深瀬さんは、有機小麦も育てています。なかなか真似て育てるのは大変かもしれませんが、こういった作物の「色づく変化」を楽しむのも喜びのひとつです。深瀬さんの小麦は、初夏の時期にだんだん色づいていきます。この写真の状態から2週間後くらいが収穫のタイミングとのことです。
もし、ご近所に田畑があったら、その色づきや実の大きさの変化を観察してみるのも、おだやかな季節の感じ方ですね。

深瀬さん直伝の3つの野菜づくりコツをお伝えしましたが、ご自身の環境に合った方法で試してみてください。
野菜づくりは特別なものではなく、自然循環の中のひとつの営みです。食べたい野菜を作るという欲求も、土と野菜を自然循環型で育むということも、無理なく、自然に優しく行える楽しみとして実践できると良いですね。
生産者紹介
農園てとて 深瀬 隆治さん、雅子さん

大分県 由布市の山間部で、農薬や化学肥料をを一切使わず、環境に負荷をかけない、次世代に続く有機農業に取り組んでいます。ご夫婦ともに大学の農学部で学び、南房総市(旧三芳村)で有機農業の研修後、九州で農地を探し、2000年に新規就農。豊富な知識と経験で多品目の有機野菜、米、麦などを栽培しています。固定種、在来種の野菜、種にこだわっています。有機JAS認証農家。古民家を再生し、民泊の受け入れもしています。