一般社団法人日本ジビエ振興協会 代表理事
東京都出身。東京・私立駒場学園高等学校の食物科(現・食物調理科)を1990年に卒業後、長野県茅野市の蓼科高原にあるオーベルジュに就職。約7年半の修業を経て、1998年4月、蓼科高原に『オーベルジュ・エスポワール』をオープン。2012年5月に任意団体として活動を始めた現・一般社団法人日本ジビエ振興協会の代表理事も務める。著書に、「フレンチで味わう信州12か月」(信濃毎日新聞社)、「ぼくが伝えたい山の幸 里の恵み~フレンチシェフが巡る」(旭屋出版)など。農水省選定「地産地消の仕事人」、内閣府認定「地域活性化伝道師」。
- 藤木さん、よろしくね!
- Hey, Sika! よろしくね!
- さっそくだけど、2021年の現代ではまだまだジビエ食が広まっていないのは、どうしてなんだろう?
- 実はね、2014年に厚生労働省が「野生鳥獣肉の衛生管理に関するガイドライン」を策定するまで、ジビエの肉は「食品・食肉」として認められていなかったんだ。
- え! どういうこと?
- 長野県内をはじめ、各地域では郷土食として昔からジビエは馴染み深いものだけれど、食品衛生法上は、ジビエの肉をどう取り扱うべきかルールがなかったんだ。
- 数年前までは、ルールがなかったなんて......!
- ジビエは捕獲した直後の血抜きなどの処理が甘いと、どうしても固くて臭い肉になってしまう。猟師さんは野生動物を捕獲するプロだけど、食肉処理のプロではないよね。だから、明確なルールができる前は、処理の甘い「ハズレ」の肉を食べてしまう人たちも多かったんだ。
- 猟師さんによって、当たりハズレがあったんだね。
- 最初にそういう肉を食べてしまった人には、「ジビエの肉=固くて臭い」というマイナスのイメージが刷り込まれてしまって、その後もずっと敬遠してしまうよね。
- たしかに......。第一印象って、大事!
- でも今は、猟師さんに向けた講習会を行ったり、加工処理施設で働く技術職員に対して、衛生管理やジビエ実技研修を行ったりと、改善に向けて動いているみたい。
- そうやって、最初からおいしいジビエの肉に出会う人が増えれば、ジビエ食はもっともっと広まりそうだね。
- そうなんだ。最近だとその栄養価に着目して、長野市内の小中学校でジビエの肉を使った給食メニューが提供されていたりするんだよ。
- へえ〜!
- 鹿肉はほかの畜肉(牛や豚)に比べて脂質が少なく、カロリーも控えめ。それに鉄分も豊富で、食肉としての利点が多いんだ。猪肉は、豚よりも鉄分やビタミン B12などが多く含まれるしね。ジビエは自然が育ててくれた、天然の食材なんだよ。
- ジビエは、貧血気味の人や美容を気にする人たちにうれしいポイントがいっぱいなんだね。
- それに、「フードマイレージ※」の観点でも、ジビエは環境負荷が低い食品といえるんだ。
-
※フードマイレージとは
輸入食糧の総重量と輸送距離を掛け合わせた指標。食料の生産地から食卓までの距離が長いほど、輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多く、地球環境に与える負荷が大きいことになる。
- 畜肉は飼育の際にエサとなる穀物を海外から輸入したり、大量の水を必要としたりする。エサを海外から運搬する過程では大量の化石燃料を消費するし、一つの肉がつくられるまでに多くの資源やお金を使うことになる。
- その点、ジビエは自然のなかで人の手を頼らず成長するね。
- ジビエには、地域も環境も人もうれしい食肉の選択肢として、大きな可能性があると思うんだ。
- 可能性??
- Hey, Sika! 長野県のニホンジカの食肉利用率を教えて!
- (ピピッ)2019年度、23.5%デス。
- ありがとう。学校給食のような活用の取り組みも増えたおかげで、2019年には食肉利用率は23.5%まで上がってきている。6〜7年ほど前まで9割が廃棄されていたのと比べると改善されているけれど、それでもまだ80%近くは廃棄されてしまっているよね。
- もったいないね!
- 適切な処理を経て、この利活用率をあげるだけでも相当な量の食肉が確保できると考えたら、大きな可能性があると思わない?
- それに、ジビエの肉は栄養価に優れていて、食品としてのフードマイレージも低いし。野生生物の適切な個体数管理は、地域の環境や農作物を守ることにもつながるしね。
Sikaの暮らす2040年は、あたりまえにジビエが食べられている世界。けれど、そこに至るには、2021年を生きる人たちの、さまざまな取り組みが不可欠だということを教えてもらったSikaでした――。
「国産ジビエ認証」を取得した長野市ジビエ加工センター
長野市が運営するジビエ加工センターは、農林水産省が衛生管理基準や認証体制などについて定めた「国産ジビエ認証制度」及び厚生労働省が定めた「HACCP(※)の考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」に沿って運営されています。そのため、衛生管理やトレーサビリティなどのより厳しい基準をクリアした、安心・安全なジビエの提供が可能です
※HACCPとは
「食品の安全性を確保するための衛生管理(衛生管理の実施状況の記録・保存など)の手法」をいいます。
認証マークの表示によって、お肉の安全性を保証
「国産ジビエ認証」マークは、国が定める衛生管理ガイドラインを遵守して適切に処理を行なっていることの証。また、捕獲から出荷されるまでの工程や衛生管理方法など、製品の履歴が確認できるトレーサビリティ管理も行われ、長野市ジビエ加工センターが扱うジビエ商品の目印となります。
それに加えて、今後は長野市産のジビエ商品には、長野市オリジナルの「ナガノジビエ」マークも表示され、安全性が確認されたジビエを購入できます。
学校給食でジビエがもっと身近に
長野市では、栄養価に優れたジビエを小中学校の給食に提供する取り組みを行なっています。鹿肉は牛の約1.95倍、豚の約6.5倍の鉄分を含んでおり、またカルシウムも豊富で子どもの成長期に必要な栄養素を摂ることができます。また、ビタミン群も豊富なため、子どもだけでなく貧血気味の大人やだったり、美容と健康を気にする大人にもうれしい特長があります。
手軽でおいしいジビエメニュー
長野県立大学の学生たちと一緒に、家庭でも調理しやすく、挑戦しやすいジビエメニューの考案を進めています。たとえば、鹿肉のビビンバ、鹿肉フレークのサラダ、鹿メンチカツボール、ラップサンドなど。
長野市の施設で加工処理されたジビエを使うことで、家庭でも親しみやすく、おいしいジビエメニューを楽しむことができます。
適切な個体数管理が農村を守る
野生鳥獣による農作物被害は、2019年度の長野市において、約5,149万円(そのうち、イノシシが約1,111万円、ニホンジカが約996万円)となっています。ここ10年で見ると、その被害額は減少傾向にありますが、長野県全体で見ると2019年度の被害額は約2億5千万円と、依然として多くの農作物被害が報告されています。
捕獲をはじめとした適切な管理計画によって、農作物や森林、自然植生への被害を防除していきます。