2021.02.05
たくさんの恵みを与えてくれる母なる海。
海を守る商品を買おう!
「わかる、えらぶ、エシカル」特集(14)

「エシカル消費」という言葉を知っていますか? エシカル消費とは、人や社会、環境に配慮した消費のことで、誰にでもできる社会貢献のアクションとして、注目されています。
本特集では前回(全9回)の特集の続編として、約6カ月にわたりエシカル消費のおすすめ12テーマを解説していきます。第14回は、「海を守る」について詳しく解説します!
海を守るには多様な問題を解決していくことが必要

地球の表面の7割を占める海にはどのような役割があるでしょうか。
「母なる海」と言われるように、海は私たちにさまざまな恵みを与えてくれています。食物となる水産物が採れることはもちろん、海上の運送や船による観光、洋上風力や波力を通じた再生可能エネルギーの供給など、人々の生活をあらゆる面で支えています。
また、地球環境にとっても海は不可欠な存在で、海中の藻や植物プランクトンは地球上にある3分の2の酸素をつくりだし(*1)、毎年排出される二酸化炭素の約3割は海に吸収されていて、気候を安定させる重要な役割も担っています(*2)。
このように、海は地球上の生物にとって必要不可欠な存在ですが、海や海の恩恵を受けている私たちにとって見過ごせない問題も起こっています。
石油をはじめとする化石燃料の使用や森林の減少によって、地球上の二酸化炭素は増加しています。これによって海の酸性化が進行しつつあり、サンゴや貝類など炭酸カルシウムでできた殻を持つ生き物にとって脅威となる可能性が指摘されています。
また、工場や農業・生活排水に含まれる化学物質や、船の事故によって起こされる油の流出も海を汚染しています。特に近年、毎年800万トンものプラスチックが海へと流れ込んでいて(*3)、2050年には重量ベースで魚の量よりもプラスチックの量の方が多くなると予測される(*4)など、いわゆる「海洋プラスチックごみ問題」も深刻化しています。
■海洋プラスチックごみ問題について詳しくはこちら
環境にも体にも優しい選択肢。「脱プラスチック」商品を買おう!
さらに、水産資源の「獲りすぎ」も問題になっています。欧米での健康志向の増加や世界的な人口の増加、経済成長を背景に水産物に対する需要が高まったことで、魚などが産まれて育つより前に獲られているのです。世界の魚の3割は過剰に獲られ、漁で獲ってもよいと定められた量にまだ余裕がある状態の水産資源の割合はわずか1割もありません(*5)。
「海を守る」とはこうした多様な問題を解決していくことを意味しているのです。
世界レベルでも海を守る取り組みは行われています。2015年の国連サミットで採択され、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会などの諸目標を定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」(*6)の14番目の目標として「海の豊かさを守ろう」が掲げられ、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用することを示しています。
今回は買い物を通して、どのように「海を守る」ことができるのかをご紹介していきます。
国内外の海を守ることにつながる商品、取り組み

年間8,000万人以上が利用するヨーロッパ最大規模のヒースロー空港。この空港は2019年6月に、より良い食料と農業のための国際的な連合組織であるSustainの認定を受け、世界初の「サステナブル・シーフード空港」となることを発表しました。具体的には、5つある全てのターミナルの37の飲食事業者が持続可能な魚介類の仕入れポリシーに基づき、追跡可能で持続可能なサプライチェーンを確保するなど、海洋資源の保全に向けた取り組みを行います。
・未利用魚や一本釣りの魚を利用する日本料理店「KIGI」

東京都・千代田区にある日本料理店「KIGI」は毎週月曜日を「肉を食べない日(Meat Free Monday)」に設定したり、食材をフェアトレード商品や有機のものへ切り替えたりするなどサステナビリティに積極的に取り組んでいます。海を守るという点でも、市場になかなか出回りにくい未利用魚(文中では雑魚)を活用したり、なるべく一本釣りの魚を使ったり、産卵期を迎えた魚を避けながら調達したりと、持続可能な水産資源を守る工夫を意識しています。
・ユニフォームを通じて海洋プラスチック問題を喚起

英国で「レッドデビルズ(赤い悪魔)」という愛称で呼ばれるマンチェスター・ユナイテッド。同チームでは海洋プラスチック汚染問題への関心を高めようと、ユニフォームを海洋プラスチックで製作しました。ネイビーブルーを基調にしたユニフォームは、プラスチックの汚染が進む世界の海をイメージしています。多くの人が目にするユニフォームだけに、よい普及啓発の機会になりそうですね。
・大量発生したクラゲを活用して製品開発と海洋保全を実現

ふわふわと神秘的に漂うクラゲ。水族館で特集展示が増えるなど注目が高まっている一方、海の"厄介者"扱いされてしまっている側面もあります。クラゲの有効活用を目指し、専門に研究するベンチャー企業、海月研究所では大量に廃棄されるミズクラゲから、生コラーゲン「JelliCollagen」の発見・抽出に成功。コラーゲンは化粧品原料として発売されています。
・「海にも人にも良い」海で育てた海藻で二酸化炭素を削減

地球温暖化対策の1つに、森に木を植えるというものがあります。実は、海の中にある海藻も、二酸化炭素を吸収して酸素を出す光合成をして大きくなります。海で海藻をたくさん育てることができれば、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減につながる。この可能性にいち早く気づいたのが神奈川県・横浜市で、昆布を育てて地元で食べることで地球温暖化に取り組んでいます。
では海を守ることにつながる商品を選ぶポイントは何でしょうか。
海を守ることにつながる商品を選ぶポイント
まずは、直接的に「海を守る」ことと関係する、海洋生物の保全につながる商品選びのポイントをご紹介します。その際に参考となるのが、MSC「海のエコラベル」とASCラベルの二つの認証ラベルです。
・MSC「海のエコラベル」

水産資源と環境に配慮し適切な管理を行っているとして、MSC認証を取得した漁業で獲られた水産品に付けられる認証ラベルです。
消費者がこのラベルの付いた水産物を選ぶことによって、厳しい取り組みをしている漁業者を支えることにつながり、持続可能な漁業が広がることになります。
・ASC認証

こちらはMSC認証の養殖版です。養殖は今や世界の水産物の半分を占めるほど増えています。しかし、養殖場建設における自然環境の破壊や水質・海洋環境の汚染、薬物の過剰投与、エサとなる生物(天然資源の魚などを含む)の過剰利用の他、労働者の人権を侵害しているケースもみられるなど、多くの課題があります。
ASC認証は、こうした課題に取り組む養殖業を認証し、環境保全に努めながら、労働者の人権や地域社会に配慮した商品であることを消費者にわかりやすくするものです。
最近ではスーパーなどでもMSC、ASC認証のついたサケやサバ、カキなどの販売が増えています。ぜひ買い物に行った際に探してみてくださいね。
■MSC/ASC認証について詳しくはこちら
このマークがついた魚なら大丈夫!「MSC/ASC」を知り尽くす7つの視点(Gyoppy!)
未利用魚を積極的に食べてみる
水産物の保全のためにはMSC、ASC認証の魚介類を選んでいくことが大切ですが、魚種や販売数が限られているため、常に認証がついているものを選ぶことは難しいかもしれません。そこで選択肢として出てくるのが「未利用魚」です。
「未利用魚」とは、サイズが不ぞろいで漁獲量が少なくロットがまとまらないなどの理由から、非食用に回されるか、市場に出回っても低い価格でしか評価されない魚のことをいいます。
最近では日本料理店「KIGI」の事例のように未利用魚を利用して、珍しいメニューとして付加価値のある料理を提供する飲食店もあります。ぜひ機会をみつけて新しいお魚のおいしさに出会ってみてください。
また、海外ではサステナブルな魚介類選びをサポートするアプリも誕生しています。デンマークの「Discover」では、商品のQRコードを読み込むと、原産地や使っている餌の種類、生産過程におけるエネルギーや水の使用量、炭素排出量、商品の細かい栄養情報などが表示され、選ぼうとしている魚介類がどこでどう育ち、獲られたものなのかがわかるようになっています。

海を守るために、わたしたちができることとは
2020年12月に日本では70年ぶりに漁業法が改正されました(*7)。これにより、科学的な根拠にもとづく漁獲量の管理がより強化されることになります。
日本の漁獲量は養殖も含め400万トン台、ピーク時である1984年の3分の1ほどしかありません。次の世代へ海の豊かさや食文化を残していくために、私たちも一消費者として「この魚はどのように取られたのだろう」と考えてみたり、海を守ることにつながる選択を意識したりしていきたいものですね。
この他にも、間接的にはなりますが、家の電気を再生可能エネルギーに変える、資源の無駄の少ない商品を選ぶなど気候変動の緩和につながる選択をしたり、化学物質やプラスチックの利用を減らしたりする選択も「海を守る」ことにつながります。
つまり、直接海に行って行動をする以外にも、海を守るアクションはたくさんあります。
次回は「無添加商品」について解説します。お楽しみに!
■出典(外部サイト)
*1 海と船まるごと豆事典
*2 日経新聞、排出されたCO2、海が3割吸収、2019年3月25日付
*3 Neufeld, L., et al. "The new plastics economy: rethinking the future of plastics." World Economic Forum. 2016.
*4 The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics (2016.Jan. World Economic Forum)
*5 FAO「The State of World Fisheries and Aquaculture 2018」
(参考) 海洋酸性化
*6 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所 持続可能な開発目標とは
*7 食卓が変わる? 70年ぶり、新たな漁業法が施行へ
記事提供
IDEAS FOR GOOD(外部サイト)

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