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エルマの読みもの

避難指示区域からの再出発。
福島県・南相馬市小高区のガラスアクセサリー

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避難指示区域からの再出発。<br>福島県・南相馬市小高区のガラスアクセサリーの写真

東日本大震災をはじめ日本中で多発している台風、豪雨、地震などの自然災害や、新型コロナウイルス感染症の流行などは、大きな社会変化を及ぼすと同時に、私たちの生活そのものや価値観にも大きな影響を与えてきました。

「知って、買って、応援 ~ものがたりが、ここにある~」企画では、さまざまな変化に屈することなく前を向き、よいものをつくり続ける。 そんな、現場の声をお届けすると共に、実際に作られた商品を紹介していきます。

社会変化を受け入れながら、変化する生活様式により合う形を追求した生産者のこだわり商品は、きっと、あなたの生活にぴったりと寄り添い、豊かさを一緒に育んでくれることでしょう。

◇ ◇ ◇

福島県北東部の海沿いに面する、南相馬市小高区。このエリアは2006年に行われた市町村合併前までは、小高町という小さな町でした。特別大きな産業はないものの、シルクをはじめとする織物業が盛んで、最盛期には40軒以上の織物工場があり、町を歩くと機織りの音が聞こえてきたといいます。

南相馬市小高区

そんな、“よくある日本の田舎町”は、2011年に起きた東日本大震災で一転、全国的にも珍しい区域に。福島第一原子力発電所事故によって、南相馬市のなかで小高区と原町区だけが避難指示区域に指定されたのです。当時、1万3,000人ほどいた小高区の住民たちは立ち退きを余儀なくされ、2016年の避難指示解除まで、じつに5年4カ月もの間、“人の住めない町”でした。

そんな小高区で、ハンドメイドガラスブランド「iriser-イリゼ-」を立ち上げたのが、株式会社小高ワーカーズベースの代表を務める和田智行さん。「若い人はこの町にもう帰ってこない」という考えが蔓延するなかで、「魅力的な仕事や働きたい環境があれば戻ってきたい人もいるのでは」と、ガラスから作品を生み出す“ランプワーカー”という仕事をこの町に取り入れました。

「住みたい町を自分の手でつくりたかった」と話す和田さんに、震災から10年の歩みと、この先の未来のお話しを聞きました。

今回ご紹介する現場

ハンドメイドガラスブランド「iriser-イリゼ-」

ガラスメーカーHARIO社のガラスアクセサリー工房として2015年に設立された『HARIOランプワークファクトリー小高』。2019年にはオリジナルブランド「iriser-イリゼ-」がスタートし、地元の女性職人たちが繊細な技術でガラスアクセサリーを生み出しています。

「iriser-イリゼ-」のハンドメイドガラスアクセサリー

魅力的な仕事をつくり、地域での雇用を生み出す

代表の和田さん

和田さんが代表を勤める小高ワーカーズベースが設立されたのは、小高区にまだ人が居住できなかった2014年のこと。会社名に「小高」を冠したことに、強い決意を感じます。

「会社の設立当時、小高区での居住は許されていませんでしたが、働くことは許可されていました。その一方で、いずれ避難指示が完全に解除されるとしても、ここで暮らしていた人たちがみんな帰ってくるのは難しいだろうと。帰還して暮らすにあたっての課題や障害を解決するビジネスをつくりたいという思いから、会社を立ち上げました」

まだほとんど人のいない小高にコワーキングスペース「小高ワーカーズベース」をつくるところからスタートし、働く人々の胃袋を支える食堂「おだかのひるごはん」や、仮設スーパー「東町エンガワ商店」など、小高ワーカーズベースは次々と事業を立ち上げます。

「高齢者の方々はお店に来てくれたんですが、『いくら頑張っても若い人はどうせこの町に戻ってこないよ』とも言われていました。でも私は、やってみたいと思える仕事や職場環境があれば、たとえ居住はしなくとも、働きにきてはくれるんじゃないかと思いまして。若い人たちに刺さる仕事をつくりたいと、ずっと思っていたんです」

そんなある日、ボランティアとして南相馬に訪れていた人との出会いから、和田さんはランプワーカーという仕事を知ることになります。その人物こそが、コーヒー器具などで知られる1921年創業の日本の耐熱ガラスメーカー「HARIO」の職人さん。HARIOでは2013年から「HARIOランプワークファクトリー」をスタートし、ガラスのアクセサリーづくりを行っていました。

ODAKA

「職人さんに『ランプワーカー』という仕事のことを教えてもらったとき、自分の考えていたいろんなことが“ガチャガチャッ”とはまった感覚がありました。ものづくりという仕事の魅力はもちろんですが、若い人、特に子育てや介護で働きたくても働けない人に、柔軟な働き方を提案できるのではないかと」

職人さんから話を聞いた翌週には東京に赴き、「小高に工房つくりたいので技術を教えてほしい」とHARIOランプワークファクトリーの社長にお願いしていた和田さん。

「HARIOも職人を継承するための課題があり、『職人を育成してくれるんだったら』ということで、快諾いただいたんです」

こうして、ガラスアクセサリー工房「HARIOランプワークファクトリー小高」は開設されました。

ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を

工房の様子

地域の抱える「魅力的な仕事がない」課題と、子育て中の女性が抱える「働きたいけれど働けない」課題。それぞれのライフスタイルに合わせて働けるランプワーカーは、その二つの課題を合わせて解決できる仕事です。しかしながら、職人という技術職の特性からの苦労もあり、試行錯誤を重ねました。

「会社を運営する立場としては、技術を身につけるまでの投資のフェーズが長いことで苦労しました。いろいろと働き方を工夫しながらやってきたのですが、なかなか技術が身につかない、集中力が続かないなどの理由から辞めてしまう人も。最初のころは『1個あたりいくら』といった成果報酬だったのですが、技術が高まるまでは収入が見込めず、本人にやる気があっても、パートナーに『騙されてるんじゃないの?』と言われてしまうこともありました……(苦笑)」

工房の様子

今では成果報酬と時給制から選べるようにして、より働き続けやすい条件に。現在は、小高区に居住している1名と、小高出身の2名を含む5名の職人に加え、4月にもう1名が入社する予定です。小さな子どものいるお母さんとしての顔も持つ彼女たちは、ライフスタイルに合わせた働き方をしています。

「勤務時間は本人たちに任せているので、子どもを小学校や幼稚園に送ってから工房へ来て作業をはじめて、お迎えに合わせて13時や14時で帰る人もいるし、17時まで働く人もいます。それも、日によってまちまちです。土日は職人さんたちが個人の作品づくりをできるように、工房を開放しています。バーナーさえあればどこでも自由にできるので、子どもが長期休みのときは自宅で作業する方もいますよ」

工房の様子

職人さんの多くはこれまでも“ものづくり”を好きだった人たちですが、「あくまでも趣味の範囲で、自分の手がけたものをお金に変えるという発想が持ちにくかったと思う」と和田さん。工房に併設しているショップで、「自分たちがつくったものをお客さんが買ってくれた」という体験が、成長意欲に繋がっているようです。

「僕らも今は彼女たちを雇用していますが、独立して他の仕事を請け負ってもいいし、作家として活動していってもらってもいいと考えています。これまで専業主婦として家庭のなかだけで過ごしていた彼女たちが、自分の目指すところを明確にして、日々工夫しているのを見るとこちらも励みになるんですよね」

オリジナルブランド「iriser-イリゼ-」をスタート

お店の様子

2019年、自分たちのブランドを立ち上げようと、オリジナルブランド「iriser-イリゼ-」をスタートしました。もともと工房に併設したショップでHARIOのアクセサリーは販売していましたが、工房を訪れたお客さんに、「この工房でつくったものはどれですか?」と、よく聞かれるようになっていたからです。

「ここでつくったHARIOのガラスパーツは、東京の工房に送って組み立てられます。そのときに他の工房のパーツとも混ざってしまうので、ここでつくったアクセサリーはこれですと、言えないんです。それがもったいないと考えるようになりました。また、職人さんたちの技術が高まってきたこともあり、自分たちらしい商品やブランドを展開していきたいという意欲が高まっていきました」

独自ブランドの立ち上げをHARIOが全面協力してくれることになり、「iriser-イリゼ-」の初期アイテムは、HARIOのデザイナーがデザインしてくれました。

まずは地域で馴染みの深い、南相馬の祭り「相馬野馬追」からインスパイアされた「馬の蹄鉄」、サーフィンが盛んな地域にちなんだ「波と風」、当時の小高の“町花”である「紅梅」をそれぞれモチーフにした、3つの商品をつくることに。

iriser-イリゼ-

そこから徐々に、「アトリエiriser」の職人さんたちによるデザインの商品も誕生していきました。2020年3月からはアクセサリーだけでなく、ガラスストローの販売も開始するなど、さらなる発展を続けています。

小高は“住みたい人しか住んでいない町”

小高

一度は誰もいなくなった町で、文字通り0からのスタートをきった和田さん。ふるさとでさまざまな事業を立ち上げていることについて、「『地元のため』っていう美談で切り取られることもあるんですけど、それよりも、自分の生きたい社会を自分でつくりたいと思ったんです」と、震災前から感じていた、生きづらさについて話してくれました。

「もともと東京から小高にUターンしたのも、田舎の長男だから実家を継がなきゃいけないというプレッシャーを受けて育ったからでした。そうした経験からも、自分の人生をもっと自分でコントロールできるような社会で生きたいと思っていて。震災が起きて避難区域になり住民が0になったときに、『だったら自分が住みたい町をここにつくればいいじゃん』と思ったんです」

現在までに小高区の住民は3,700人ほどが戻り、震災後の移住者はおよそ600人。住人の多くが、新しいことにチャレンジする人に対して温かく応援してくれると言います。

小高

「僕らはみんな、一度は住む場所を追い出されてしまいました。逆に言うと、この町には今、“どうしても住みたい人”しか住んでいないんですよね。地方に住んでいると、『こんな田舎なんて早く出て行きたい』という考えの人が一定数いると思うんですけど、住みたい人しか住んでいない町って、居心地が良いんです」

地域でなにかアクションを起こそうとすると、長く住んできた人たちとの間で摩擦が起きがちですが、小高の場合は、高齢者の方たちも「若い人が何かやるなら」と応援してくれるといいます。

和田さん率いる小高ワーカーズベースが掲げているミッションは、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」。この地域に多様なスモールビジネスをつくっていきたいと、語気を強めます。

和田さん

「どうしても地方では、経済を活性化しようとするときに、企業誘致であったり、産業をつくろうって話になるんですけど……。変化の激しい社会のなかで、想定した通りに事が運ばずポシャったときに、地域が共倒れになってしまう。それって、原発の構造と何も変わらないんです。だから、大きな事業や行政に頼りすぎるのではなく、多様な事業者が生まれるのが当たり前な風土を醸成したいと思っています」

仮に失敗する事業があっても、挑戦する大人の背中を見て育った次の世代の子どもたちが、その跡地にまた新しい事業をはじめられるように。和田さんが考えるビジネスの創出とは、未来への種まきでもあります。

「『何もないし、つまらないから出ていく』のではなくて、『何もないからこそ、ほしいものを自分でつくればいいじゃん』って。それが決して特別なことじゃないってことを、子どもたちに思ってもらえるように、僕らが先んじて示していきたいんです」

予測不能な未来には無限大の可能性が詰まっている

津波の高さを示す看板

東日本大震災から10年。避難指示区域とともに生きたこの年月の間に、“目に見えないものへの怖さ”や、“分断”を経験し、和田さんは「不測の事態が起こることを前提に生きるのが大事だ」と考えるようになりました。

「僕らはよく『予測不能な未来を楽しもう』って言ってるんですけど、変化の激しい社会を生きるなかで、不測の事態が起きることを前提に生きていくスタンスをとったほうがいいと思うんです。事業にしても、暮らしにしても、生きていく選択にしても。“予測不能”なことは絶望的なことじゃなくて、僕らが予測できない“可能性”もいっぱいあるということですから」

予測不能だということは、可能性も無限大。「iriser-イリゼ-」のオリジナルアイテムの一つに、無限大をモチーフにした『アンフィニ』というシリーズがあります。

iriser-イリゼ-

「専業主婦だった彼女たちがガラス職人になったこともあり、『誰でも無限の可能性がある』、『この街そのものにもいろんな可能性がある』ということを表現しました」

“住みたい人しか住んでいない町”には、無限の可能性がある。「iriser-イリゼ-」のアクセサリーは、それを象徴しているように見えました。


取材・文:栗本千尋

「iriser-イリゼ-」の商品はこちら

「iriser-イリゼ-」のハンドメイドガラスアクセサリー
フランス語で「虹色にする」「虹色に輝く」という意味をもつ『iriser – イリゼ -』のガラスアクセサリーは、一つひとつが職人による手づくりです。
南相馬の地域で馴染み深い「相馬野馬追」や「波と風」、「紅梅」をモチーフにしたガラスアクセサリーの繊細な美しさをぜひお楽しみください。

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