こんにちは。突然ですが、「北の九州」ってどのあたりかご存知ですか?
答えは、福岡県の北部。福岡といったら博多でしょ?いえいえ、北九だって負けてませんよ。関門海峡や門司港、小倉など異国情緒漂うおしゃれスポットが充実。また、灘に囲まれた立地と石灰岩の大地が生んだミネラルあふれる水のおかげで、食の宝庫でもあります。どんなところ?と聞かれたら海と山と島と街と人が、ざっくりひとつになってますと答える。そんな場所。
今回は旅のはじまりにふさわしい、旦過市場(たんがいちば)をご案内します。九州の玄関口に位置し、北九州の17市町から自慢の幸が集結する市場です。
まるで、百年かけて1つの老舗ができあがっていくような。大正時代に始まった旦過市場は、ゆっくりと熟成されたスポット。毎日、そこでしかできない出会いがあります。さあエルマさんもご一緒に、約120店が軒を連ねるアーケードをくぐりましょう。とっておきの旦過時間が、すぐそこに待っています。
入り口から歩いて少し。エルマさんは、ある店先の前で足を止めるはず。これ一体、なんだと思いますか?いなり寿司?ブブー。違います。これは「カナッペ」という名前。カナッペって、ヤスコちゃんがパーティーでサーブしてくれるアレ?ささ、とにかくガブリと召し上がれ。
外はカリッ、中はフワッ。カリカリの正体はトースト、フワッはかまぼこなんです。独特な食感と、スパイシーな中に甘みが広がる温かい味。みじん切りの人参や玉ねぎなどを魚のすり身と混ぜ合わせ、薄ーく切った食パン(美味しさの秘訣)で、くるりと巻いたらリズミカルに揚げる。老若男女を虜にする大人気のカナッペは、並べたそばから売れていきます。
やみつきになり、毎日欠かさず買いに来てくれるお客さんもいたとのこと。「それならこっちも、いつ来ても揚げたてを食べてもらわなきゃならんぞ」と、従業員が一丸となってがんばったそう。このバトルは、1年間続いたんだって!職人気質に頭が下がります。
「小倉かまぼこ」は、約100年前に旦過市場が始まった当時の初期メンバー。「カナッペは1959年に私の母が考案したんです」と、少し得意げに話してくれた店主の森尾和則さんは3代目。カナッペという名称が持つ当時の新しさ感は、今でいうならタルティーヌ。それって、おしゃれすぎです。
「はい、いらっしゃい!はい、どうぞー!おいしいよ!ありがとうございまーす!」
と、女性店員さんのひときわ威勢良い声が飛ぶ。
「店は父が始めて。...自分は10年前からです」。言葉少なに語るのは、創業50年「山本商店」の店主、永野隆昭さん。さつまいものPOPに「おいもちゃん」とあります、かわいいです!とふっても「従業員が書いて...」と、つれないお返事。けれどもこちらは、赤、黄色、オレンジ、緑、紫、ピンクなど色の洪水に溺れてアップアップ、構わず続けてしまいます。
「今日のおすすめはなんですか?」
「...かぼすです。...かぼすは、こことあっちに2種類。...種なしと、種があるのと」「えっ、これ、かぼす?私の知ってるサイズの4倍くらい大きいです!」「...焼き魚や、焼酎に合います」と、取り出した包丁でざくっと半分に。ハッとする色のコンビネーションは、深く濃い緑色と輝く黄色。皮の無骨な手触り感、そこから立ち上がる柑橘特有のフルーティで爽やかな香り。この果汁を思う存分、焼き立てのサンマに絞りなさい!エルマさん、ゴクリと喉が鳴ってますよ。
お次は、ネット通販の大人気商品が生まれたお店にお連れしますよ。
「キャンプに持って行ったら、すごく盛り上がった」「肉料理、魚料理、サラダ、何にでも合います」キャンパーの間で神・調味料と言われているBBQのマストアイテム「黒瀬のスパイス」は、今や自宅のキッチンでも大人気。これさえあればプロっぽい料理になると、インスタでもイチオシです。パパっとふれば、カフェで食べるような美味しさにウットリなんだとか。
鶏肉専門店「かしわ屋くろせ」の店頭には、唐揚げや串カツなどのお惣菜が並びます。黒瀬のスパイスができたのは、なんと20年前。「オヤジが作って、売れ始めたのはごく最近(笑)」と、2代目店主の黒瀬善裕さん。それまたどうして?「自分がキャンプ好きで。キャンプは工夫の過程がおもしろい。あれを持参したら楽しいな、これは盛り上がるに違いないとか。帰り道にはもう、次はどうしようと考えてます」。その中に、スパイスがあったと。
「初めは自分のために持って行った。家に余るほどあったんで(笑)。BBQの肉にかけたら、やっぱりウマい。周りにも貸してあげたら、すごいすごいとなってキャンパーたちがブログで紹介してくれた。そこからは、あっという間に広まりました」
最後は、地元のソウルフードをご紹介します。
「百年床」というなんともキャッチーな看板が目をひく「宇佐美商店」は、ぬかみそ炊きのお店。青魚をぬかみそで炊き込んだ江戸時代から伝わる郷土料理で、各家庭それぞれの味があるそう。宇佐美商店のぬか床は、初代の奥様のお嫁入り道具。親子3代百年に渡って、その味を守り継いできました。魚や、ぬかが苦手な人にこそ、是非チャレンジして欲しい味です。
IT関連の仕事を経て、現社長である叔母のもとで店長見習として2年。新たな担い手として、その歴史を引き継ぐのはとても難しいことですよね。「いえ、自分はゼロから始める必要がないので、恵まれています。祖父や叔母が道をつけてくれたから、それを守っているだけです」と、30代の宇佐美雄介さん。それは謙遜しすぎではあるまいか。
「百年床.com」というURLで、お店の新しいホームページを立ち上げたそう。ドットコム、いいですね。研究会も発足し、ぬかみそ炊き商品を試行錯誤で開発中とのこと。若い人にも食べやすい今の味を求めて、日々の研究と実験を積み重ねています。最近の自信作は、スペアリブのぬかみそ炊き。これが夢のように柔らかくてもう、とーってもおいしいのです。
北九州都市圏域「北の九州」は、福岡県の北部に位置する17の市町を繋ぐ圏域。今も昔もこれからも、海と山と島と街と人が、ざっくりひとつになった場所。そんな北九各地からの恵みが集まる、旦過市場をご案内しました。エルマさん、いかがでしたか?
店主にカメラを向ければ「メイクを直してもらえー」と、ご近所から笑顔のヤジが飛ぶ。すれ違ったおばあちゃんが「遠くからよく来たね」と、おもてなしの声をかけてくれる。押し付けない。尊重する。そして楽しむ。みんながこの瞬間を大切に、じっくり育てていることを感じました。これが旦過市場の、そして北九の醍醐味なんですね。
味わうことは旅のはじまり。また会おうね、旦過市場!